キタキューヘリテージ Kitakyu Heritage 近代化遺産

門司の【デッドセクション】

time 2022/04/15

私ね…たまたま急用があって…

普段はあまり乗らないんですが…夜、列車で下関駅へと向かっていたんです…

確か…門司駅を出たあたりだと思うんですがね…

車内の蛍光灯がチラチラし始めたかと思うと、フッと車内が真っ暗になったんです…

「え!停電?故障?」

私驚いて、周りを見渡したんですが…乗ってる人たち…まるで気にしていないかのような感じで…

スマホをいじったり…ぼーっしていたり…あるいは談笑をしていたり…

車内は妙な静けさで『タタン、タタン』とレールの継ぎ目を越える音ばかり…

「こわいな…おそろしいな…」

何秒なのか何分なのかどれだけ時間が過ぎたのか、急に車内がパッと明るくなったんです…

気づくと列車は関門トンネルを轟音で下っていました…

あれは何だったのか、まるで自分一人が異世界の入り口に入りかけていたかのような…

そんな恐怖体験をしたんです…

〜市内会社員Tさんの実話〜

これはまことしやかに囁かれる門司駅の怪談であ…

そんなことはない。

しかしこの「車内の停電現象」は本当の話だ。

普段この路線を利用する人はあたりまえで誰も動じないが、門司駅ー下関駅間、正確には門司駅を出発して関門トンネルに入る直前、列車の車内灯が数秒間消える。

なぜ、そんなことが起こるのか。

それはこの場所が【死電区間】だからだ。

死…やっぱりなにか不穏な感じがする、こわいな、おそろしいな…

安心してほしい、鉄道用語で【死電区間】【デッドセクション】とも呼ばれ、この路線の特徴でもある。
ここは九州と本州が関門鉄道トンネルでつながる場所だ。


電車は車体の屋根の上にあるパンタグラフという装置を介し、架線から電力を得ている。
九州と本州での在来線はその得る”電気の仕組み”が違うのだ。

九州では「交流2万ボルト60ヘルツ」、本州では「直流1500ボルト」という規格となっている。
そのため、どちらかの規格に特化してしまうと、反対側では走らない列車になる。
”走らない”ならまだ良いが、「交流2万ボルト60ヘルツ」で動くモーターに「直流1500ボルト」を流したらどうなるだろうか?
専門的知識がなくても「壊れる」ことは容易に想像がつく。

小倉駅ー下関駅間は交通としても要所であり、通勤/通学客も多いので、乗り換えのない直通が求められる。

2022年現在この路線を走る列車は、それなりに古い車両だ。
最新車両を運用するのであれば自動で切り替えられる装置が組み込まれているが、ここを走る車両は手動で切り替えている。

門司駅を発車した電車はほどなく【デッドセクション】に入る。
ここは「交流」と「直流」どちらの電気も流れないまさに”電気の死んだ”区間なのだ。

そのため電力を得られない電車は、車輪を回すモーターはもちろん停止する。
安全のため必要最低限の電力をバッテリーから賄いつつ車内の電灯が消灯する。

つまり、このデッドセクション間は惰性で走っているのだ。
運転手はこのわずかな間に、手動にて列車の「交流」「直流」を切り替える。

切り替えが終わり、デッドセクションを抜ければ再び架線より電力の供給が開始され、直流で関門トンネルへ臨む、という流れになる。

写真の車両は”415系”だが、折り返しで小倉駅ー下関駅間で運用されていた。
415系は交流と直流のどちらでも切り替え可能な交直両用電車である。
1971年(昭和46年)デビュー、現在は国内でJR九州のみに在籍する希少な車両となった。
北九州の人にとっては馴染み深いこのお顔。今日も『関門』を走り抜けている。

下関駅で向かいのホームにいた黄色い車両。顔つきこそ415系に似てはいるが、この列車は115系。
直流1500ボルト専用で対岸の九州を走ることはできない。

◇◇◇


デッドセクションにおける交直の切り替えは下関駅から門司駅へと向かう場合ももちろん同じである。
関門トンネルを抜けるとデッドセクションに入り、手動にて「直流」から「交流」へ切り替えている。

ひとつ違うのは門司駅からは関門トンネルへと下っているのに対し、逆では関門トンネルを登ってくる。
つまり、惰性で通り抜けるのがやや難しいということだ。

デッドセクションで万が一停止してしまえば電車はもう動かない。
この門司のデッドセクションで停止した事例はみつからなかったが、国内の他のデッドセクション内で緊急停止した車両が立ち往生した、とか切り替えを失敗して車両故障が起こってしまったという事例もあった。

運転手としては慣れた作業かもしれないが、失敗は許されない緊張を伴う作業なのだろう。

このため各所に標識が掲げられている。

標識もあれば文字看板、手作り感満載の反射板を組み合わせたイケてるものもある。

乗り慣れた人ならば特別気にもしないのだろうが、毎日安全な運行のために意識を高めているのだ。


◇◇◇


もうひとつ、この場所ならではの特徴的で面白い現象がある。
下の写真をご覧いただきたい。

関門トンネルを抜けてきた”415系1500番代”と呼ばれる交直両用列車だが、写真向かって左のライトが消えて『ウィンク』している。

詳しいことはわからないが、デッドセクションを抜ける間、こうして片目が消灯して門司駅に侵入してくるのだ。
推測だが、デッドセクションでバッテリーに切り替えた際、必要最低限の電力として片方を消灯するのではないだろうか?
ヘッドライトは鉄道では「前部標識」と呼ばれ、最低一個以上の点灯が必要とされている。ちなみに前方を照らすという目的ではなく、夜間に鉄道標識を照らすのが本来の目的とのことだ。(豆知識だ!)

初見さんはびっくりしてしまう【門司のデッドセクション】
将来的には新造車両の投入などで見られなくなってしまう景色なのかもしれない。

どこまでも続く線路、九州の最果て。
わずか数秒の難所を今日も運転手が交直を手動で切り替え、鉄道関門トンネルを走り抜けてゆく。

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Write by TAKA

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Taka

Taka

北九州市在住。愛車はフォルクスワーゲンザ・ビートル。ベスパとハーレー、両極端のバイク乗り。 人と人、歴史の点と点、結びつければ歴史が紐解かれる。